労働者側の弁護士が思う残業代が発生している会社の特徴

Q:労働者側の弁護士は、残業代の相談を受けた時、どの部分から残業代を請求できるかどうか判断しているのでしょうか。

A:就業規則や契約内容に照らして、労働実態から残業が発生しているかをまず判断します。残業が発生している場合には、次に残業代の基礎単価がいくらになるのか、すでに支払われている分はないのかなどといった未払い残業代の計算に必要な諸要素を検討し、未払い残業代の請求ができるかどうかを判断しています。会社側の言い分があるような場合にはそれも検討します。

それだけでなく、法的な根拠はないですが、残業代が発生していると思われる会社の特徴もあります。

労働者側から残業代の相談を受けたときはさまざまな聞き取りポイントがあり、ここで全て書き切ることはできません。法的な根拠はありませんが、今回は相談の中で残業代が発生していそうだなと思う会社の発言や会社の特徴を特定のテーマに絞ってお話ししていきます。

業種・職種

業界では、運送業、タクシー事業、飲食業、塾講師。職種では、営業職が残業代発生の割合が多いように思います。

職種で残業代の有無が決まるわけではないですが、相談の初めに業界・職種を聞いた時、運送関係や飲食関係だと残業代が発生していそうだなと感じることが多いです。
色眼鏡で見てはいけないのでしょうが、運送関係は、労働時間が長いためか労働時間に応じて賃金を計算し支払おうとしない企業が多いという印象です。歩合給を残業代の支払いに充てたり、固定残業代を導入したりしてテクニカルに残業代を支払わないような体制を構築しようという気持ちが業界全体から感じ取れます。
一方、飲食は、単にサービス残業多いといいますか、残業が発生していても支払おうとしない、残業代の計算すらしない企業が多い印象です。
もちろん、これは私が残業代の相談を受けた所感ですので、ちゃんと残業代を計算して支払っている企業も多く存在するものと思います。

残業代が発生していそうだなと思う会社の体制

給与明細を見た時に、固定残業代が高すぎる、総支給の割合から基本給が低すぎる、基本給の額を残業代の額が上回っているといったような場合には、残業代が発生している率が高いように思います。

残業代があまりにも高額な場合、残業代の計算が作為的であったり、給料総額ありきで基本給や残業代にその金額を振り分けているだけだったりという場合が多いように思います。
例えば、給料総額が50万円という設定で、その50万円を辻褄が合うように基本給20万円、残業代15万円、その他手当15万円といったように振り分けている場合ですね。
こういった残業代の設定のやり方は、一見残業代が発生していないように思えますが、実際は従業員の労働実態に合致してなかったり、残業代の設定をしたときに給与条件の不利益変更があったりと問題が生じている場合が多いように思います。
そのような場合、既払いのつもりの残業代の支払いが認められなかったり、固定残業代が無効とされたりするケースがあります。

残業代が発生していそうだなと思う会社の発言

未払い残業代の発生が認定されてしまうケースで、会社側からよくある発言を私のイメージで集めてみましたのでご紹介します。

「ちゃんと働いていなかったから残業代を出さない」

従業員が主張する労働時間のうち、労働をしていないので労働時間に該当しないという主張かと思います。
しかし、タイムカード等一定の証拠がある場合、会社側の労働時間に該当しないという主張が認められるにはそれなりの根拠や証拠が必要になってくる場合が多いです。
会社がちゃんと働いていないという主張をする場合その証拠がない場合が多く、裁判上ではなかなか認められない印象です。

「残業は許可制だったのに許可をとらず勝手に残業していた」

従業員が残業していたことを会社が知っていたのに、漫然と放置していた、残業を禁止するなどの措置をとらなかった場合、使用者による黙示の残業命令が認定される場合が多いです。また、残業を許可制や申請制にしていたとしても、残業の必要性や会社の実態などを考慮して、従業員が会社の指揮命令下に置かれていたといえるような場合には残業代請求が認められてしまいます。
残業代が許可制・申告制と主張するだけでは、なかなか裁判所は認めてくれません。
会社が残業を積極的に禁止していた場合には、残業の認定に影響しますが、それを示す証拠資料も必要になります。

「各種手当として残業代を支払っている」

各種手当の支払いが残業代の支払いとして認められるには、その手当の趣旨が残業代の支払いといえることが必要です。
就業規則等の記載や雇用契約書等からその手当の趣旨が明らかにならないような場合には、残業代の支払いと認められないことも多いです。
個人的には給与明細記載の手当の名称から残業代の支払いと何も連想できないような場合には残業代の支払いと認められないことが多いように思います(就業規則に記載があっても、周知性の不備等で就業規則の記載の効果が認められない場合もあります)。

まとめ

未払い残業代が発生している会社には一定の特徴があるように思います。
上記の特徴に当てはまる会社はもしかしたら未払い残業代が発生しているかもしれません。
未払い残業代の請求を予防する仕組みづくりでご不安がある場合には、専門的知見を有する弁護士に相談することをお勧めします。

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